こうからか、ときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙《のろし》のようなものが、かわるがわるきれいな桔梗《ききょう》いろのそらにうちあげられるのでした。じつにそのすきとおった奇麗《きれい》な風は、ばらのにおいでいっぱいでした。
「いかがですか。こういう苹果《りんご》はおはじめてでしょう」向《む》こうの席《せき》の燈台看守《とうだいかんしゅ》がいつか黄金《きん》と紅《べに》でうつくしくいろどられた大きな苹果《りんご》を落《お》とさないように両手《りょうて》で膝《ひざ》の上にかかえていました。
「おや、どっから来たのですか。立派《りっぱ》ですねえ。ここらではこんな苹果《りんご》ができるのですか」青年はほんとうにびっくりしたらしく、燈台看守《とうだいかんしゅ》の両手《りょうて》にかかえられた一もりの苹果《りんご》を、眼《め》を細《ほそ》くしたり首《くび》をまげたりしながら、われを忘《わす》れてながめていました。
「いや、まあおとりください。どうか、まあおとりください」
 青年は一つとってジョバンニたちの方をちょっと見ました。
「さあ、向《む》こうの坊《ぼっ》ちゃんがた。いかがですか。おとりくださ
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