音もない水にかこまれて、ほんとうにその黒い測候所《そっこうじょ》が、睡《ねむ》っているように、しずかによこたわったのです。
「あれは、水の速《はや》さをはかる器械《きかい》です。水も……」鳥捕《とりと》りが言《い》いかけたとき、
「切符《きっぷ》を拝見《はいけん》いたします」三人の席《せき》の横《よこ》に、赤い帽子《ぼうし》をかぶったせいの高い車掌《しゃしょう》が、いつかまっすぐに立っていて言《い》いました。鳥捕《とりと》りは、だまってかくしから、小さな紙きれを出しました。車掌《しゃしょう》はちょっと見て、すぐ眼《め》をそらして(あなた方のは?)というように、指《ゆび》をうごかしながら、手をジョバンニたちの方へ出しました。
「さあ」ジョバンニは困《こま》って、もじもじしていましたら、カムパネルラはわけもないというふうで、小さな鼠《ねずみ》いろの切符《きっぷ》を出しました。ジョバンニは、すっかりあわててしまって、もしか上着《うわぎ》のポケットにでも、はいっていたかとおもいながら、手を入れてみましたら、何か大きなたたんだ紙きれにあたりました。こんなものはいっていたろうかと思って、急《いそ》
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