、いつから乗《の》っていたのか、せいの高い、黒いかつぎをしたカトリックふうの尼《あま》さんが、まんまるな緑《みどり》の瞳《ひとみ》を、じっとまっすぐに落《お》として、まだ何かことばか声かが、そっちから伝《つた》わって来るのを、虔《つつし》んで聞いているというように見えました。旅人《たびびと》たちはしずかに席《せき》に戻《もど》り、二人《ふたり》も胸《むね》いっぱいのかなしみに似《に》た新しい気持《きも》ちを、何気なくちがった語《ことば》で、そっと談《はな》し合ったのです。
「もうじき白鳥の停車場《ていしゃば》だねえ」
「ああ、十一時かっきりには着《つ》くんだよ」
早くも、シグナルの緑《みどり》の燈と、ぼんやり白い柱《はしら》とが、ちらっと窓《まど》のそとを過《す》ぎ、それから硫黄《いおう》のほのおのようなくらいぼんやりした転《てん》てつ機《き》の前のあかりが窓《まど》の下を通り、汽車はだんだんゆるやかになって、まもなくプラットホームの一|列《れつ》の電燈《でんとう》が、うつくしく規則《きそく》正しくあらわれ、それがだんだん大きくなってひろがって、二人はちょうど白鳥|停車場《ていしゃじ
前へ
次へ
全110ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング