た》れ、黒いバイブルを胸《むね》にあてたり、水晶《すいしょう》の数珠《じゅず》をかけたり、どの人もつつましく指《ゆび》を組み合わせて、そっちに祈《いの》っているのでした。思わず二人《ふたり》ともまっすぐに立ちあがりました。カムパネルラの頬《ほお》は、まるで熟《じゅく》した苹果《りんご》のあかしのようにうつくしくかがやいて見えました。
そして島《しま》と十字架《じゅうじか》とは、だんだんうしろの方へうつって行きました。
向《む》こう岸《ぎし》も、青じろくぼうっと光ってけむり、時々、やっぱりすすきが風にひるがえるらしく、さっとその銀《ぎん》いろがけむって、息《いき》でもかけたように見え、また、たくさんのりんどうの花が、草をかくれたり出たりするのは、やさしい狐火《きつねび》のように思われました。
それもほんのちょっとの間、川と汽車との間は、すすきの列《れつ》でさえぎられ、白鳥の島《しま》は、二|度《ど》ばかり、うしろの方に見えましたが、じきもうずうっと遠く小さく、絵《え》のようになってしまい、またすすきがざわざわ鳴って、とうとうすっかり見えなくなってしまいました。ジョバンニのうしろには
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