うの花のコップが、湧《わ》くように、雨のように、眼《め》の前を通り、三角標《さんかくひょう》の列《れつ》は、けむるように燃《も》えるように、いよいよ光って立ったのです。
七 北十字《きたじゅうじ》とプリオシン海岸《かいがん》
「おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか」
いきなり、カムパネルラが、思い切ったというように、少しどもりながら、せきこんで言《い》いました。
ジョバンニは、
(ああ、そうだ、ぼくのおっかさんは、あの遠い一つのちりのように見える橙《だいだい》いろの三角標《さんかくひょう》のあたりにいらっしゃって、いまぼくのことを考えているんだった)と思いながら、ぼんやりしてだまっていました。
「ぼくはおっかさんが、ほんとうに幸《さいわい》になるなら、どんなことでもする。けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸《さいわい》なんだろう」カムパネルラは、なんだか、泣《な》きだしたいのを、一生けん命《めい》こらえているようでした。
「きみのおっかさんは、なんにもひどいことないじゃないの」ジョバンニはびっくりして叫《さけ》びました。
「ぼくわからない。
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