ましたし、いちばんうしろの壁《かべ》には空じゅうの星座《せいざ》をふしぎな獣《けもの》や蛇《へび》や魚や瓶《びん》の形に書いた大きな図《ず》がかかっていました。ほんとうにこんなような蠍《さそり》だの勇士《ゆうし》だのそらにぎっしりいるだろうか、ああぼくはその中をどこまでも歩いてみたいと思ってたりしてしばらくぼんやり立っていました。
それからにわかにお母さんの牛乳《ぎゅうにゅう》のことを思いだしてジョバンニはその店をはなれました。
そしてきゅうくつな上着《うわぎ》の肩《かた》を気にしながら、それでもわざと胸《むね》を張《は》って大きく手を振《ふ》って町を通って行きました。
空気は澄《す》みきって、まるで水のように通りや店の中を流《なが》れましたし、街燈《がいとう》はみなまっ青なもみや楢《なら》の枝《えだ》で包《つつ》まれ、電気会社の前の六本のプラタナスの木などは、中にたくさんの豆電燈《まめでんとう》がついて、ほんとうにそこらは人魚の都《みやこ》のように見えるのでした。子どもらは、みんな新しい折《おり》のついた着物《きもの》を着《き》て、星めぐりの口笛《くちぶえ》を吹《ふ》いたり、
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