が、新しいえりのとがったシャツを着《き》て、電燈《でんとう》の向《む》こう側《がわ》の暗《くら》い小路《こうじ》から出て来て、ひらっとジョバンニとすれちがいました。
「ザネリ、烏瓜《からすうり》ながしに行くの」ジョバンニがまだそう言《い》ってしまわないうちに、
「ジョバンニ、お父さんから、ラッコの上着《うわぎ》が来るよ」その子が投《な》げつけるようにうしろから叫《さけ》びました。
 ジョバンニは、ばっと胸《むね》がつめたくなり、そこらじゅうきいんと鳴るように思いました。
「なんだい、ザネリ」とジョバンニは高く叫《さけ》び返《かえ》しましたが、もうザネリは向《む》こうのひばの植《う》わった家の中へはいっていました。
(ザネリはどうしてぼくがなんにもしないのにあんなことを言《い》うのだろう。走るときはまるで鼠《ねずみ》のようなくせに。ぼくがなんにもしないのにあんなことを言《い》うのはザネリがばかなからだ)
 ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまの灯《あかり》や木の枝《えだ》で、すっかりきれいに飾《かざ》られた街《まち》を通って行きました。時計屋《とけいや》の店には明る
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