》をつかったら、缶《かん》がすっかりすすけたよ」
「そうかねえ」
「いまも毎朝新聞をまわしに行くよ。けれどもいつでも家じゅうまだしいんとしているからな」
「早いからねえ」
「ザウエルという犬がいるよ。しっぽがまるで箒《ほうき》のようだ。ぼくが行くと鼻《はな》を鳴らしてついてくるよ。ずうっと町の角《かど》までついてくる。もっとついてくることもあるよ。今夜はみんなで烏瓜《からすうり》のあかりを川へながしに行くんだって。きっと犬もついて行くよ」
「そうだ。今晩《こんばん》は銀河《ぎんが》のお祭《まつ》りだねえ」
「うん。ぼく牛乳《ぎゅうにゅう》をとりながら見てくるよ」
「ああ行っておいで。川へははいらないでね」
「ああぼく岸《きし》から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ」
「もっと遊《あそ》んでおいで。カムパネルラさんといっしょなら心配《しんぱい》はないから」
「ああきっといっしょだよ。お母さん、窓をしめておこうか」
「ああ、どうか。もう涼《すず》しいからね」
 ジョバンニは立って窓《まど》をしめ、お皿《さら》やパンの袋《ふくろ》をかたづけると勢《いきお》いよく靴《くつ》をはいて、
「では
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