だ。
 たしかに人は歩かないでいられない、また物を言わないでいられない。けれども人にはそれよりももっと大切なものがないだろうか。足や舌《した》とも取《と》りかえるほどもっと大切なものがないだろうか。むずかしいけれども考えてごらん。」
 アラムハラドが斯う言う間タルラは顔をまっ赤《か》にしていましたがおしまいは少し青ざめました。アラムハラドがすぐ言いました。
「タルラ、も一度答えてごらん。お前はどんなものとでもお前の足をとりかえないか。お前はどんなものとでもお前の足をとりかえるのはいやなのか。」
 タルラがまるで小さな獅子《しし》のように答えました。
「私は饑饉《ききん》でみんなが死《し》ぬとき若《も》し私の足が無《な》くなることで饑饉がやむなら足を切っても口惜《くや》しくありません。」
 アラムハラドはあぶなく泪《なみだ》をながしそうになりました。
「そうだ。おまえには歩くことよりも物《もの》を言うことよりももっとしないでいられないことがあった。よくそれがわかった。それでこそ私の弟子《でし》なのだ。お前のお父さんは七年前の不作のとき祭壇《さいだん》に上って九日|祷《いの》りつづけられた
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