子のタルラが少し顔を赤くして口をまげてわらいました。
アラムハラドはすばやくそれを見て言いました。
「タルラ、答えてごらん。」
タルラは礼《れい》をしてそれから少し工合《ぐあい》わるそうに横《よこ》の方を見ながら答えました。
「人は歩いたり物《もの》を言ったりいたします。」
アラムハラドがわらいました。
「よろしい。よくお前は答えた。全《まった》く人はあるかないでいられない。病気《びょうき》で永《なが》く床《とこ》の上に居《い》る人はどんなに歩きたいだろう。ああ、ただも一度《いちど》二本の足でぴんぴん歩いてあの楽地《らくち》の中の泉《いずみ》まで行きあの冷《つめ》たい水を両手《りょうて》で掬《すく》って呑《の》むことができたらそのまま死《し》んでもかまわないと斯《こ》う思うだろう。またお前の答えたように人は物を言わないでいられない。
考えたことをみんな言わないでいることは大へんにつらいことなのだ。そのため病気にさえもなるのだ。人がともだちをほしいのは自分の考えたどんなことでもかくさず話しまたかくさずに聴《き》きたいからだ。だまっているということは本統《ほんとう》につらいことなの
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