ッサンタラ大王のはなしを知っているだろう。ヴェーッサンタラ大王は檀波羅蜜《だんばらみつ》の行《ぎょう》と云ってほしいと云われるものは何でもやった。宝石《ほうせき》でも着物《きもの》でも喰《た》べ物でもそのほか家でもけらいでも何でもみんな乞《こ》われるままに施《ほどこ》された。そしておしまいとうとう国の宝《たから》の白い象《ぞう》をもお与《あた》えなされたのだ。けらいや人民《じんみん》ははじめは堪《こら》えていたけれどもついには国も亡《ほろ》びそうになったので大王を山へ追《お》い申《もう》したのだ。大王はお妃《きさき》と王子王女とただ四人で山へ行かれた。大きな林にはいったとき王子たちは林の中の高い樹《き》の実《み》を見てああほしいなあと云《い》われたのだ。そのとき大王の徳《とく》には林の樹もまた感《かん》じていた。樹の枝《えだ》はみな生物のように垂《た》れてその美《うつく》しい果実《くだもの》を王子たちに奉《たてまつ》った。
 これを見たものみな身《み》の毛もよだち大地も感《かん》じて三べんふるえたと云うのだ。いま私らはこの実をとることができない。けれどももしヴェーッサンタラ大王のように
前へ 次へ
全15ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング