大へんに徳のある人ならばそしてその人がひどく飢《う》えているならば木の枝はやっぱりひとりでに垂れてくるにちがいない。それどころでない、その人は樹をちょっと見あげてよろこんだだけでもう食べたとおんなじことにもなるのだ。」
アラムハラドは斯《こ》う云ってもう一度《いちど》林の高い木を見あげました。まっ黒な木の梢《こずえ》から一きれのそらがのぞいておりましたがアラムハラドは思わず眼《め》をこすりました。さっきまでまっ青《さお》で光っていたその空がいつかまるで鼠《ねずみ》いろに濁《にご》って大へん暗《くら》く見えたのです。樹はゆさゆさとゆすれ大へんにむしあつくどうやら雨が降《ふ》って来そうなのでした。
「ああこれは降って来る。もうどんなに急《いそ》いでもぬれないというわけにはいかない。からだの加減《かげん》の悪《わる》いものは誰々《だれだれ》だ。ひとりもないか。畑《はたけ》のものや木には大へんいいけれどもまさか今日こんなに急《きゅう》に降るとは思わなかった。私たちはもう帰らないといけない。」
けれどもアラムハラドはまだ降るまではよほど間《ま》があると思っていました。ところがアラムハラドの斯
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