ったり立ったり屈んだり横に歩いたりするのは大へん愉快さうでしたがどう云ふ訳か上下に交通するのがいやさうでした。
(こんなことは実に稀です。)
 だんだん工事が進みました。
 斉藤平太は人数を巧《うま》く組み合せて両方の終る日が丁度同じになるやうにやって置きましたから両方丁度同じ日にそれが終りました。
(こんなことは実に稀れです。)
 終りましたら大工さんたちはいよいよ変な顔をしてため息をついて黙って下ばかり見て居りました。
 斉藤平太は分教場の玄関から教員室へ入らうとしましたがどうしても行けませんでした。それは廊下がなかったからです。
(こんなことは実に稀《まれ》です。)
 斉藤平太はひどくがっかりして今度は急いで消防小屋に行きました。そして下の方をすっかり検分し今度は二階の相談所を見ようとしましたがどうしても二階に昇れませんでした。それは梯子《はしご》がなかったからです。
(こんなことは実に稀です。)
 そこで斉藤平太はすっかり気分を悪くしてそっと財布を開いて見ました。
 そしたら三円入ってゐましたのですぐその乗馬ズボンのまゝ渡しを越えて町へ行きました。
 それから汽車に乗りました。
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