二階建、も一つは村の分教場です。
(こんなことは実に稀《ま》れです。)
 斉藤平太は四日かかって両方の設計図を引いてしまひました。
 それからあちこちの村の大工たちをたのんでいよいよ仕事にかゝりました。
 斉藤平太は茶いろの乗馬ズボンを穿《は》き赤ネクタイを首に結んであっちへ行ったりこっちへ来たり忙しく両方を監督しました。
 工作小屋のまん中にあの設計図が懸《か》けてあります。
 ところがどうもをかしいことはどう云《い》ふわけか平太が行くとどの大工さんも変な顔をして下ばかり向いて働いてなるべく物を言はないやうにしたのです。
 大工さんたちはみんな平太を好きでしたし賃銭だってたくさん払ってゐましたのにどうした訳かをかしな顔をするのです。
(こんなことは実に稀れです。)
 平太が分教場の方へ行って大工さんたちの働きぶりを見て居《を》りますと大工さんたちはくるくる廻ったり立ったり屈《かが》んだりして働くのは大へん愉快さうでしたがどう云ふ訳か横に歩くのがいやさうでした。
(こんなことは実に稀《まれ》です。)
 平太が消防小屋の方へ行って大工さんたちの働くのを見てゐますと大工さんたちはくるくる廻
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