よ。狐《きつね》なんかなんでもありませんよ。僕《ぼく》には貝《かい》の火があるのですもの。あの玉が砕《くだ》けたり曇《くも》ったりするもんですか」
お母さんが申《もう》しました。
「本当にね、いい宝石《いし》だね」
ホモイは得意《とくい》になって言《い》いました。
「お母さん。僕《ぼく》はね、うまれつきあの貝《かい》の火と離《はな》れないようになってるんですよ。たとえ僕《ぼく》がどんな事《こと》をしたって、あの貝《かい》の火がどこかへ飛《と》んで行くなんて、そんな事《こと》があるもんですか。それに僕《ぼく》毎日百ずつ息《いき》をかけてみがくんですもの」
「実際《じっさい》そうだといいがな」とお父さんが申《もう》しました。
その晩《ばん》ホモイは夢《ゆめ》を見ました。高い高い錐《きり》のような山の頂上《ちょうじょう》に片脚《かたあし》で立っているのです。
ホモイはびっくりして泣《な》いて目をさましました。
*
次の朝ホモイはまた野に出ました。
今日は陰気《いんき》な霧《きり》がジメジメ降《ふ》っています。木も草もじっと黙《だま》り込《こ》みました。ぶなの木
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