童子は初《はじ》めからお了《しま》いまでにこにこ笑《わら》っておられました。須利耶さまもお笑いになりみんなを赦《ゆる》して童子を連れて其処《そこ》をはなれなさいました。
そして浅黄《あさぎ》の瑪瑙《めのう》の、しずかな夕もやの中でいわれました。
(よくお前はさっき泣かなかったな。)その時童子はお父さまにすがりながら、
(お父さんわたしの前のおじいさんはね、からだに弾丸《たま》を七つ持っていたよ。)と斯う申されたと伝えます。」
巡礼の老人は私の顔を見ました。
私もじっと老人のうるんだ眼を見あげておりました。老人はまた語りつづけました。
「また或る晩《ばん》のこと童子は寝付《ねつ》けないでいつまでも床《とこ》の上でもがきなさいました。(おっかさんねむられないよう。)と仰っしゃりまする、須利耶の奥さまは立って行って静かに頭を撫《な》でておやりなさいました。童子さまの脳《のう》はもうすっかり疲《つか》れて、白い網《あみ》のようになって、ぶるぶるゆれ、その中に赤い大きな三日月《みかづき》が浮かんだり、そのへん一杯《いっぱい》にぜんまいの芽《め》のようなものが見えたり、また四角な変に柔《やわ
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