》らかな白いものが、だんだん拡《ひろ》がって恐ろしい大きな箱になったりするのでございました。母さまはその額《ひたい》が余り熱いといって心配《しんぱい》なさいました。須利耶さまは写《うつ》しかけの経文《きょうもん》に、掌《て》を合せて立ちあがられ、それから童子さまを立たせて、紅革《べにがわ》の帯を結《むす》んでやり表へ連れてお出になりました。駅《えき》のどの家ももう戸を閉《し》めてしまって、一面《いちめん》の星の下に、棟々《むねむね》が黒く列《なら》びました。その時童子はふと水の流れる音を聞かれました。そしてしばらく考えてから、
(お父さん、水は夜でも流れるのですか。)とお尋《たず》ねです。須利耶さまは沙漠の向うから昇って来た大きな青い星を眺めながらお答えなされます。
(水は夜でも流れるよ。水は夜でも昼でも、平《たい》らな所でさえなかったら、いつまでもいつまでも流れるのだ。)
 童子の脳は急《きゅう》にすっかり静《しず》まって、そして今度は早く母さまの処にお帰りなりとうなりまする。
(お父さん。もう帰ろうよ。)と申されながら須利耶さまの袂《たもと》を引っ張《ぱ》りなさいます。お二人は家に
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