《じめん》に達《たっ》しまする。それは白い鬚《ひげ》の老人で、倒《たお》れて燃えながら、骨立《ほねだ》った両手《りょうて》を合《あわ》せ、須利耶さまを拝《おが》むようにして、切なく叫びますのには、
(須利耶さま、須利耶さま、おねがいでございます。どうか私の孫《まご》をお連《つ》れ下さいませ。)
 もちろん須利耶さまは、馳《は》せ寄《よ》って申されました。《いいとも、いいとも、確《たし》かにおれが引き取《と》ってやろう。しかし一体お前らは、どうしたのだ。》そのとき次々《つぎつぎ》に雁が地面に落ちて来て燃えました。大人もあれば美しい瓔珞《ようらく》をかけた女子《おなご》もございました。その女子はまっかな焔に燃えながら、手をあのおしまいの子にのばし、子供は泣《な》いてそのまわりをはせめぐったと申《もう》しまする。雁の老人が重ねて申しますには、
(私共は天の眷属《けんぞく》[※3]でございます。罪があってただいままで雁の形を受けておりました。只今|報《むく》いを果《はた》しました。私共は天に帰ります。ただ私の一人の孫はまだ帰れません。これはあなたとは縁《えん》のあるものでございます。どうぞあな
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