りられました天童子《てんどうじ》だというのです。このお堂はこのごろ流沙の向う側《がわ》にも、あちこち建《た》っております。」
「天のこどもが、降りたのですか。罪《つみ》があって天から流《なが》されたのですか。」
「さあ、よくわかりませんが、よくこの辺《へん》でそう申します。多分そうでございましょう。」
「いかがでしょう、聞かせて下さいませんか。お急《いそ》ぎでさえなかったら。」
「いいえ、急ぎはいたしません。私の聴《き》いただけお話いたしましょう。
沙車《さしゃ》[※2]に、須利耶圭《すりやけい》という人がございました。名門《めいもん》ではございましたそうですが、おちぶれて奥《おく》さまと二人、ご自分は昔からの写経《しゃきょう》をなさり、奥さまは機《はた》を織《お》って、しずかにくらしていられました。
ある明方《あけがた》、須利耶さまが鉄砲《てっぽう》をもったご自分の従弟《いとこ》のかたとご一緒《いっしょ》に、野原を歩いていられました。地面《じめん》はごく麗《うる》わしい青い石で、空がぼうっと白く見え、雪もま近《ぢか》でございました。
須利耶さまがお従弟さまに仰《お》っしゃるには
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