ゅうくつにも思いました。
 けれども、ふと私は泉のうしろに、小さな祠《ほこら》のあるのを見付《みつ》けました。それは大へん小さくて、地理学者や探険家《たんけんか》ならばちょっと標本《ひょうほん》に持《も》って行けそうなものではありましたがまだ全《まった》くあたらしく黄いろと赤のペンキさえ塗《ぬ》られていかにも異様《いよう》に思われ、その前には、粗末《そまつ》ながら一本の幡《はた》も立っていました。
 私は老人が、もう食事も終《おわ》りそうなのを見てたずねました。
「失礼《しつれい》ですがあのお堂《どう》はどなたをおまつりしたのですか。」
 その老人も、たしかに何か、私に話しかけたくていたのです。だまって二、三度うなずきながら、そのたべものをのみ下して、低《ひく》く言いました。
「……童子のです。」
「童子ってどう云《い》う方ですか。」
「雁の童子と仰《お》っしゃるのは。」老人は食器《しょっき》をしまい、屈《かが》んで泉の水をすくい、きれいに口をそそいでからまた云いました。
「雁の童子と仰っしゃるのは、まるでこの頃《ごろ》あった昔《むかし》ばなしのようなのです。この地方にこのごろ降《お》
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