幾本もの虫のあるく道を横切って、大粒の雨にうたれゴム靴《ぐつ》をピチャピチャ云はせながら、楢《なら》の木の下のブン蛙のおうちに来て高く叫びました。
「今日は、今日は。」
「どなたですか。あゝ君か。はひり給《たま》へ。」
「うん、どうもひどい雨だね。パッセン大街道も今日はいきものの影さへないぞ。」
「さうか。ずゐぶんひどい雨だ。」
「ところで君も知ってる通り、明後日《あさって》は僕の結婚式なんだ。どうか来て呉れ給へ。」
「うん。さうさう。さう云へばあの時あのちっぽけな赤い虫が何かそんなこと云ってゐたやうだったね。行かう。」
「ありがたう。どうか頼むよ。それではさよならね。」
「さよならね。」
 カン蛙《がへる》は又ピチャピチャ林の中を通ってすゝきの中のベン蛙のうちにやって参りました。
「今日は、今日は。」
「どなたですか。あゝ君か。はひれ。」
「ありがたう。どうもひどい雨だ。パッセン大街道も今日はしんとしてるよ。」
「さうか。ずゐぶんひどいね。」
「ところで君も知ってるだらうが明後日僕の結婚式なんだ。どうか来て呉れ給へ。」
「あゝ、そんなことどこかで聞いたっけねい。行かう。」
「どうか。
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