し急いで行かうか。」と二疋が両方から、まだ破けないカン蛙のゴム靴《ぐつ》を見ながら一緒に云ひました。
「おい。よさうよ。冗談じゃない。よさう。あ痛っ。あぁあ、たうとう穴があいちゃった。」
「どうだ。この空気のうまいこと。」
「おい。帰らうよ。ひっぱらないで呉れよ。」
「実にいゝ景色だねえ。」
「放して呉れ。放して呉れ。放せったら。畜生。」
「おや、君は何かに足をかじられたんだね。そんなにもがかなくてもいゝよ。しっかり押へてるから。」
「放せ、放せ、放せったら、畜生。」
「まだかじってるかい。そいつは大変だ。早く逃げ給へ。走らう。さあ。そら。」
「痛いよ。放せったら放せ。えい畜生。」
「早く、早く。そら、もう大丈夫だ。おや。君の靴《くつ》がぼろぼろだね。どうしたんだらう。」
 実際ゴム靴はもうボロボロになって、カン蛙《がへる》の足からあちこちにちらばって、無くなりました。
 カン蛙は何とも言へないうらめしさうな顔をして、口をむにゃむにゃやりました。実はこれは歯を食ひしばるところなのですが、歯がないのですからむにゃむにゃやるより仕方ないのです。二疋はやっと手をはなして、しきりに両方からお世
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