辞を云ひました。
「君、あんまり力を落さない方がいゝよ。靴なんかもうあったってないったって、お嫁さんは来るんだから。」
「もう時間だらう。帰らう。帰って待ってようか。ね。君。」
 カン蛙はふさぎこみながらしぶしぶあるき出しました。

          ※

 三疋がカン蛙のおうちに着いてから、しばらくたって、ずうっと向ふから、蕗《ふき》の葉をかざしたりがまの穂を立てたりしてお嫁さんの行列がやって参りました。
 だんだん近くになりますと、お父さんにあたるがん郎がへるが、
「こりゃ、むすめ、むこどのはあの三人の中のどれぢゃ。」とルラ蛙をふりかへってたづねました。
 ルラ蛙は、小さな目をパチパチさせました。といふわけは、はじめカン蛙を見たときは、実はゴム靴のほかにはなんにも気を付けませんでしたので、三疋ともはだしでぞろりとならんでゐるのでは実際どうも困ってしまひました。そこで仕方なく、
「もっと向ふへ行かないと、よくわからないわ。」と云ひました。
「さうですとも。間違っては大へんです。よくおちついて。」と仲人《なかうど》のかへるもうしろで云ひました。
 ところがもっと近くによりますと、尚更
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