ならね」ももう鼻について厭《あ》きて参りました。もう少しです。我慢して下さい。ほんのもう少しですから。

          ※

 次の日のひるすぎ、雨がはれて陽《ひ》が射《さ》しました。ベン蛙とブン蛙とが一緒にカン蛙のうちへやって来ました。
「やあ、今日はおめでたう。お招き通りやって来たよ。」
「うん、ありがたう。」
「ところで式まで大分時間があるだらう。少し歩かうか。散歩すると血色がよくなるぜ。」
「さうだ。では行かう。」
「三人で手をつないでかうね。」ブン蛙とベン蛙とが両方からカン蛙の手を取りました。
「どうも雨あがりの空気は、実にうまいね。」
「うん。さっぱりして気持ちがいゝね。」三疋は萱《かや》の刈跡にやって参りました。
「あゝいゝ景色だ。こゝを通って行かう。」
「おい。こゝはよさうよ。もう帰らうよ。」
「いゝや折角来たんだもの。も少し行かう。そら歩きたまへ。」二疋は両方からぐいぐいカン蛙の手をひっぱって、自分たちも足の痛いのを我慢しながらぐんぐん萱の刈跡をあるきました。
「おい。よさうよ。よして呉れよ。こゝは歩けないよ。あぶないよ。帰らうよ。」
「実にいゝ景色だねえ。も少
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