《しょうしゅう》、があ、非常召集」
 大尉の部下はたちまち枝をけたてて飛びあがり大尉のまわりをかけめぐります。
「突貫《とっかん》。」烏の大尉は先登《せんとう》になってまっしぐらに北へ進みました。
 もう東の空はあたらしく研《と》いだ鋼《はがね》のような白光《しろびかり》です。
 山烏はあわてて枝をけ立てました。そして大きくはねをひろげて北の方へ遁《に》げ出そうとしましたが、もうそのときは駆逐艦《くちくかん》たちはまわりをすっかり囲んでいました。
「があ、があ、があ、があ、があ」大砲の音は耳もつんぼになりそうです。山烏は仕方なく足をぐらぐらしながら上の方へ飛びあがりました。大尉はたちまちそれに追い付いて、そのまっくろな頭に鋭《するど》く一突《ひとつ》き食らわせました。山烏はよろよろっとなって地面に落ちかかりました。そこを兵曹長が横からもう一突きやりました。山烏は灰いろのまぶたをとじ、あけ方の峠の雪の上につめたく横《よこた》わりました。
「があ、兵曹長。その死骸《しがい》を営舎までもって帰るように。があ。引き揚げっ。」
「かしこまりました。」強い兵曹長はその死骸を提《さ》げ、烏の大尉はじ
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