くそく》はすっかり消えたんだから、外《ほか》へ嫁《い》ってくれ。」
「あら、どうしましょう。まあ、大へんだわ。あんまりひどいわ、あんまりひどいわ。それではあたし、あんまりひどいわ、かあお、かあお、かあお、かあお」
「泣くな、みっともない。そら、たれか来た。」
 烏の大尉の部下、烏の兵曹長《へいそうちょう》が急いでやってきて、首をちょっと横にかしげて礼をして云いました。
「があ、艦長殿、点呼の時間でございます。一同整列して居《お》ります。」
「よろしい。本艦は即刻《そっこく》帰隊する。おまえは先に帰ってよろしい。」
「承知いたしました。」兵曹長は飛んで行きます。
「さあ、泣くな。あした、も一度列の中で会えるだろう。
 丈夫でいるんだぞ、おい、お前ももう点呼だろう、すぐ帰らなくてはいかん。手を出せ。」
 二疋はしっかり手を握《にぎ》りました。大尉はそれから枝をけって、急いでじぶんの隊に帰りました。娘の烏は、もう枝に凍《こお》り着いたように、じっとして動きません。
 夜になりました。
 それから夜中になりました。
 雲がすっかり消えて、新らしく灼《や》かれた鋼《はがね》の空に、つめたいつめた
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