うす黒く、ただ西の山のうえだけ濁《にご》った水色の天の淵《ふち》がのぞいて底光りしています。そこで烏仲間でマシリイと呼ぶ銀の一つ星がひらめきはじめました。
烏の大尉は、矢のようにさいかちの枝《えだ》に下《お》りました。その枝に、さっきからじっと停《とま》って、ものを案じている烏があります。それはいちばん声のいい砲艦で、烏の大尉の許嫁《いいなずけ》でした。
「があがあ、遅《おそ》くなって失敬。今日の演習で疲《つか》れないかい。」
「かあお、ずいぶんお待ちしたわ。いっこうつかれなくてよ。」
「そうか。それは結構だ。しかしおれはこんどしばらくおまえと別れなければなるまいよ。」
「あら、どうして、まあ大へんだわ。」
「戦闘艦隊長のはなしでは、おれはあした山烏を追いに行くのだそうだ。」
「まあ、山烏は強いのでしょう。」
「うん、眼玉《めだま》が出しゃばって、嘴《くちばし》が細くて、ちょっと見掛けは偉《えら》そうだよ。しかし訳ないよ。」
「ほんとう。」
「大丈夫《だいじょうぶ》さ。しかしもちろん戦争のことだから、どういう張合でどんなことがあるかもわからない。そのときはおまえはね、おれとの約束《や
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