そのときはもうまっ先の烏の大尉は、四へんほど空で螺旋《うず》を巻いてしまって雲の鼻っ端《ぱし》まで行って、そこからこんどはまっ直《す》ぐに向うの杜《もり》に進むところでした。
二十九隻の巡洋艦《じゅんようかん》、二十五隻の砲艦《ほうかん》が、だんだんだんだん飛びあがりました。おしまいの二隻は、いっしょに出発しました。ここらがどうも烏の軍隊の不規律なところです。
烏の大尉は、杜のすぐ近くまで行って、左に曲がりました。
そのとき烏の大監督が、「大砲《たいほう》撃てっ。」と号令しました。
艦隊は一斉《いっせい》に、があがあがあがあ、大砲をうちました。
大砲をうつとき、片脚《かたあし》をぷんとうしろへ挙げる艦《ふね》は、この前のニダナトラの戦役《せんえき》での負傷兵で、音がまだ脚の神経にひびくのです。
さて、空を大きく四へん廻《まわ》ったとき、大監督が、
「分れっ、解散」と云いながら、列をはなれて杉の木の大監督官舎におりました。みんな列をほごしてじぶんの営舎に帰りました。
烏の大尉は、けれども、すぐに自分の営舎に帰らないで、ひとり、西のほうのさいかちの木に行きました。
雲は
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