《のど》のこわれた烏が二|疋《ひき》いるんだよ。おい。」
これはたしかに間違《まちが》いで、一疋しか居《お》りませんでしたし、それも決してのどが壊《こわ》れたのではなく、あんまり永い間、空で号令したために、すっかり声が錆《さ》びたのです。それですから烏の義勇艦隊は、その声をあらゆる音の中で一等だと思っていました。
雪のうえに、仮泊ということをやっている烏の艦隊は、石ころのようです。胡麻《ごま》つぶのようです。また望遠鏡でよくみると、大きなのや小さなのがあって馬鈴薯《ばれいしょ》のようです。
しかしだんだん夕方になりました。
雲がやっと少し上の方にのぼりましたので、とにかく烏の飛ぶくらいのすき間ができました。
そこで大監督が息を切らして号令を掛《か》けます。
「演習はじめいおいっ、出発」
艦隊長烏の大尉が、まっさきにぱっと雪を叩《たた》きつけて飛びあがりました。烏の大尉の部下が十八|隻《せき》、順々に飛びあがって大尉に続いてきちんと間隔《かんかく》をとって進みました。
それから戦闘艦隊が三十二隻、次々に出発し、その次に大監督の大艦長が厳《おごそ》かに舞《ま》いあがりました。
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