口に云った。
おれはびっくりしてその顔を見た。それからまわりの窓を見た。そこの窓にはたくさんの顔がみな一様な表情を浮べてゐた。愚かな愚かな表情を、院長さんとその園芸家とどっちが頭がうごくだらうといった風の――えい糞考へても胸が悪くなる。
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(えゝもう どうせまはりがかういふぐあいですから対称形より仕方ありますまい。)
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おれも感応した帯電体のやうにごく早口に返事した。院長がすぐ出て行って農夫に云った。
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(その中心にきれを結びつけてこゝのとこまで持って来て、さうさう それから円を描きたまへ。関口、そこへ杭をぐるっとまはすんだ。)[#ここで字下げ終わり]院長は白いきれを杭の外へまはした。
あゝだめだ正方形のなかの退屈な円かとおれは思った。
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(向ふの建物から丁度三間距離を置いて正方形をつくりたまへ。)
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だめだだめだ。これではどこにも音楽がない。おれの考へてゐるのは対称はとりながらごく不規則なモザイクにしてその境を一尺のみちに練瓦をジグザグに埋めてそこへまっ白な石灰をつめこむ
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