花壇工作
宮沢賢治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから4字下げ]
−−
おれは設計図なぞ持って行かなかった。
それは書くのが面倒なのと、もひとつは現場ですぐ工作をする誰かの式を気取ったのと、さう二っつがおれを仕事着のまゝ支那の将軍のやうにその病院の二つの棟にはさまれた緑いろした中庭にテープを持って立たせたのだ。草取りに来てゐた人も院長の車夫もレントゲンの助手もみな面白がって手伝ひに来た。そこでたちまち箱を割って拵えた小さな白い杭もでき ほうたいをとった残りの晒しの縁のまっ白な毬も出て来た。そこでおれは美しい正方形のつめくさの絨氈の上で夕方までいろいろ踊るといふのはどうだ あんな単調で暑苦しい蔬菜畑の仕事にくらべていくら楽しいかしれないと考へた。それにこゝには観る人がゐた。北の二階建の方では見知りの町の人たちや富沢先生だ富沢先生だとか云って囁き合ってゐる村の人たち、南の診察室や手術室のある棟には十三才の聖女テレジアといった風の見習ひの看護婦たちが行ったり来たりしてゐたし、それにおれはおれの創造力に充分な
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング