うになった所を抜《ぬ》けたり、すすきが栽《う》え込《こ》みのように見える間を通ったりして、私は歩きつづけましたが、野原はやっぱり今まで通り、小流れなどはなかったのです。もう仕方ない、この辺でパンをたべてしまおうと立ちどまったとき、私はずうっと向うの方で、ベルの鳴る音を聞きました。それはどこの学校でも鳴らすベルの音のようで、空のあの白いうろこ雲まで響《ひび》いていたのです。この野原には、学校なんかあるわけはなし、これはきっと俄《にわか》に立ちどまった為《ため》に、私の頭がしいんと鳴ったのだと考えても見ましたが、どうしても心からさっきの音を疑うわけには行きませんでした。それどころじゃない、こんどは私は、子供らのがやがや云う声を聞きました。それは少しの風のために、ふっとはっきりして来たり、又俄かに遠くなったりしました。けれどもいかにも無邪気《むじゃき》な子供らしい声が、呼んだり答えたり、勝手にひとり叫《さけ》んだり、わあと笑ったり、その間には太い底力のある大人の声もまじって聞えて来たのです。いかにも何か面白そうなのです。たまらなくなって、私はそっちへ走りました。さるとりいばらにひっかけられたり、窪《くぼ》みにどんと足を踏《ふ》みこんだりしながらも、一生けん命そっちへ走って行きました。
すると野原は、だんだん茨が少くなって、あのすずめのかたびらという、一尺ぐらいのけむりのような穂を出す草があるでしょう、あれがたいへん多くなったのです。私はどしどしその上をかけました。そしたらどう云うわけか俄かに私は棒か何かで足をすくわれたらしくどたっと草に倒《たお》れました。急いで起きあがって見ますと、私の足はその草のくしゃくしゃもつれた穂にからまっているのです。私はにが笑いをしながら起きあがって又走りました。又ばったりと倒れました。おかしいと思ってよく見ましたら、そのすずめのかたびらの穂は、ただくしゃくしゃにもつれているのじゃなくて、ちゃんと両方から門のように結んであるのです。一種のわなです。その辺を見ますと実にそいつが沢山《たくさん》つくってあるのです。私はそこでよほど注意して又歩き出しました。なるべく足を横に引きずらず抜きさしするような工合《ぐあい》にしてそっと歩きましたけれどもまだ二十歩も行かないうちに、又ばったりと倒されてしまいました。それと一緒《いっしょ》に、向うの方で、どっと
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