笑い声が起り、それからわあわあはやすのです。白や茶いろや、狐の子どもらがチョッキだけを着たり半ズボンだけはいたり、たくさんたくさんこっちを見てはやしているのです。首を横にまげて笑っている子、口を尖《とが》らせてだまっている子、口をあけてそらを向いてはあはあはあはあ云う子、はねあがってはねあがって叫んでいる子、白や茶いろやたくさんいます。ああこれはとうとう狐小学校に来てしまった、いつかどこかで誰《たれ》かに聴《き》いた茨海《ばらうみ》狐小学校へ来てしまったと、私はまっ赤になって起きあがって、からだをさすりながら考えました。その時いきなり、狐の生徒らはしいんとなりました。黒のフロックを着た先生が尖った茶いろの口を閉じるでもなし開くでもなし、眼《め》をじっと据《す》えて、しずかにやって来るのです。先生といったって、勿論《もちろん》狐の先生です。耳の尖っていたことが今でもはっきり私の目に残っています。俄かに先生はぴたりと立ちどまりました。
「お前たちは、又わなをこしらえたな。そんなことをして、折角《せっかく》おいでになったお客さまに、もしものことがあったらどうする。学校の名誉《めいよ》に関するよ。今日はもうお前たちみんな罰《ばっ》しなければならない。」
狐の生徒らはみんな耳を伏《ふ》せたり両手を頭にあげたりしょんぼりうなだれました。先生は私の方へやって来ました。
「ご参観でいらっしゃいますか。」
私はどうせ序《ついで》だ、どうなるものか参観したいと云ってやろう、今日は日曜なんだけれども、さっきベルも鳴ったし、どうせ狐のことだからまたいい加減の規則もあって、休みだというわけでもないだろうと、ひとりで勝手に考えました。
「ええ、ぜひそう願いたいのです。」
「ご紹介《しょうかい》はありますか。」
私はふと、いつか幼年画報に出ていたたけしという人の狐小学校のスケッチを思い出しました。
「画家のたけしさんです。」
「紹介状はお持ちですか。」
「紹介状はありませんがたけしさんは今はずいぶん偉《えら》いですよ。美術学院の会員ですよ。」
狐の先生はいけませんというように手をふりました。
「とにかく、紹介状はお持ちにならないですね。」
「持ちません。」
「よろしゅうございます。こちらへお出《い》で下さい。ただ今丁度ひるのやすみでございますが、午后の課業をご案内いたします。」
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