さっぱり来なくなったからどうしたのかと思って大堰の下の岐《わか》れまで行ってみたら権十《ごんじゅう》がこっちをとめてじぶんの方へ向《む》けていた。ぼくはまるで権十が甘藍《かんらん》の夜盗虫《よとうむし》みたいな気がした。顔がむくむく膨《ふく》れていて、おまけにあんな冠《かぶ》らなくてもいいような穴《あな》のあいたつばの下った土方《どかた》しゃっぽをかぶってその上からまた頬《ほお》かぶりをしているのだ。
手も足も膨れているからぼくはまるで権十が夜盗虫みたいな気がした。何をするんだと云ったら、なんだ、農《のう》学校|終《おわ》ったって自分だけいいことをするなと云うのだ。ぼくもむっとした。何だ、農学校なぞ終っても終らなくてもいまはぼくのとこの番にあたって水を引いているのだ。それを盗《ぬす》んで行くとは何だ。と云ったら、学校へ入ったんでしゃべれるようになったもんな、と云う。ぼくはもう大きな石をたたきつけてやろうとさえ思った。
けれども権十はそのまま行ってしまったから、ぼくは水をうちの方へ向け直《なお》した。やっぱり権十はぼくを子供《こども》だと思ってぼくだけ居《い》たものだからあんなことを
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