うご》から七時まで番水《ばんすい》があたったので樋番《といばん》をした。何せ去年《きょねん》からの巨《おお》きなひびもあるとみえて水はなかなかたまらなかった。くろへ腰掛《こしか》けてこぼこぼはっていく温《あたたか》い水へ足を入れていてついとろっとしたらなんだかぼくが稲《いね》になったような気がした。そしてぼくが桃《もも》いろをした熱病《ねつびょう》にかかっていてそこへいま水が来たのでぼくは足から水を吸《す》いあげているのだった。どきっとして眼《め》をさました。水がこぼこぼ裂目《さけめ》のところで泡《あわ》を吹《ふ》きながらインクのようにゆっくりゆっくりひろがっていったのだ。
 水が来なくなって下田の代掻《しろかき》ができなくなってから今日で恰度《ちょうど》十二日雨が降《ふ》らない。いったいそらがどう変《かわ》ったのだろう。あんな旱魃《かんばつ》の二年|続《つづ》いた記録《きろく》が無《な》いと測候所《そっこうじょ》が云《い》ったのにこれで三年続くわけでないか。大堰《おおぜき》の水もまるで四|寸《すん》ぐらいしかない。夕方になってやっといままでの分へ一わたり水がかかった。
 三時ごろ水が
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