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いま窓《まど》の右手にえぞ富士《ふじ》が見える。火山だ。頭が平《ひら》たい。焼《や》いた枕木《まくらぎ》でこさえた小さな家がある。熊笹《くまざさ》が茂《しげ》っている。植民地《しょくみんち》だ。

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いま小樽《おたる》の公園に居《い》る。高等商業《こうとうしょうぎょう》の標本室《ひょうほんしつ》も見てきた。馬鈴薯《ばれいしょ》からできるもの百五、六十|種《しゅ》の標本が面白《おもしろ》かった。
この公園も丘《おか》になっている。白樺《しらかば》がたくさんある。まっ青《さお》な小樽|湾《わん》が一目だ。軍艦《ぐんかん》が入っているので海軍には旗《はた》も立っている。時間があれば見せるのだがと武田《たけだ》先生が云った。ベンチへ座《すわ》ってやすんでいると赤い蟹《かに》をゆでたのを売りに来る。何だか怖《こわ》いようだ。よくあんなの食べるものだ。

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一千九百廿五年十月十六日
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一時間目の修身《しゅうしん》の講義《こうぎ》が済《す》んでもまだ時間が余《あま》っていたら校長が何でも
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