あいるかですと云《い》った。あんまりみんな甲板《かんぱん》のこっち側《がわ》へばかり来たものだから少し船が傾《かたむ》いた。
風が出てきた。
何だか波が高くなってきた。
東も西も海だ。向うにもう北海道が見える。何だか工合《ぐあい》がわるくなってきた。

      *

いま汽車は函館《はこだて》を発《た》って小樽《おたる》へ向《むか》って走っている。窓《まど》の外はまっくらだ。もう十一時だ。函館の公園はたったいま見て来たばかりだけれどもまるで夢《ゆめ》のようだ。
巨《おお》きな桜《さくら》へみんな百ぐらいずつの電燈《でんとう》がついていた。それに赤や青の灯《ひ》や池にはかきつばたの形した電燈《でんとう》の仕掛《しか》けものそれに港《みなと》の船の灯や電車の火花じつにうつくしかった。けれどもぼくは昨夜《さくや》からよく寝《ね》ないのでつかれた。書かないでおいたってあんなうつくしい景色《けしき》は忘《わす》れない。それからひるは過燐酸《かりんさん》の工場と五稜郭《ごりょうかく》。過燐酸|石灰《せっかい》、硫酸《りゅうさん》もつくる。
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五月廿日

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