る街道《かいどう》が通っている。少し大きな谷には小さな家が二、三十も建《た》っていてそこの浜には五、六そうの舟《ふね》もある。
さっきから見えていた白い燈台《とうだい》はすぐそこだ。ぼくは船が横《よこ》を通る間にだまってすっかり見てやろう。絵が上手《じょうず》だといいんだけれども僕《ぼく》は絵は描《か》けないから覚《おぼ》えて行ってみんな話すのだ。風は寒《さむ》いけれどもいい天気だ。僕は少しも船に酔《よ》わない。ほかにも誰《だれ》も酔ったものはない。
*
いるかの群《むれ》が船の横を通っている。いちばんはじめに見附《みつ》けたのは僕だ。ちょっと向うを見たら何か黒いものが波《なみ》から抜《ぬ》け出て小さな弧《こ》を描《えが》いてまた波へはいったのでどうしたのかと思ってみていたらまたすぐ近くにも出た。それからあっちにもこっちにも出た。そこでぼくはみんなに知らせた。何だか手を気を付《つ》けの姿勢《しせい》で水を出たり入ったりしているようで滑稽《こっけい》だ。
先生も何だかわからなかったようだが漁師《りょうし》の頭《かしら》らしい洋服《ようふく》を着《き》た肥《ふと》った人があ
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