何だか変《へん》な気がする。
海が岬《みさき》で見えなくなった。松林《まつばやし》だ。また見える。次《つぎ》は浅虫《あさむし》だ。石を載《の》せた屋根《やね》も見える。何て愉快《ゆかい》だろう。

      *

青森の町は盛岡《もりおか》ぐらいだった。停車場《ていしゃじょう》の前にはバナナだの苹果《りんご》だの売る人がたくさんいた。待合室《まちあいしつ》は大きくてたくさんの人が顔を洗《あら》ったり物《もの》を食べたりしている。待合室で白い服《ふく》を着《き》た車掌《しゃしょう》みたいな人が蕎麦《そば》も売っているのはおかしい。

      *

船はいま黒い煙《けむり》を青森の方へ長くひいて下北半島《しもきたはんとう》と津軽《つがる》半島の間を通って海峡《かいきょう》へ出るところだ。みんなは校歌をうたっている。けむりの影《かげ》は波《なみ》にうつって黒い鏡《かがみ》のようだ。津軽半島の方はまるで学校にある広重《ひろしげ》の絵のようだ。山の谷がみんな海まで来ているのだ。そして海岸《かいがん》にわずかの砂浜《すなはま》があってそこには巨《おお》きな黒松《くろまつ》の並木《なみき》のあ
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