[#ここで字下げ終わり]
一九二五、五、一八、
[#ここから1字下げ]
汽車は闇《やみ》のなかをどんどん北へ走って行く。盛岡《もりおか》の上のそらがまだぼうっと明るく濁《にご》って見える。黒い藪《やぶ》だの松林《まつばやし》だのぐんぐん窓《まど》を通って行く。北上《きたかみ》山地の上のへりが時々かすかに見える。
さあいよいよぼくらも岩手県《いわてけん》をはなれるのだ。
うちではみんなもう寝《ね》ただろう。祖母さんはぼくにお守《まも》りを借《か》してくれた。さよなら、北上山地、北上川、岩手県の夜の風、今武田先生が廻《まわ》ってみんなの席《せき》の工合《ぐあい》や何かを見て行った。
[#ここで字下げ終わり]
一九二六[#「六」に「(ママ)」の注記]、五、一九、〔以下空白〕
五月十九日
[#ここから1字下げ]
*
いま汽車は青森県の海岸《かいがん》を走っている。海は針《はり》をたくさん並《なら》べたように光っているし木のいっぱい生《は》えた三角な島もある。いま見ているこの白い海が太平洋《たいへいよう》なのだ。その向《むこ》うにアメリカがほんとうにあるのだ。ぼくは
前へ
次へ
全31ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング