が帰って炉《ろ》ばたに居《い》たからぼくは思い切って父にもう一|度《ど》学校の事情《じじょう》を云った。
 すると父が母もまだ伊勢詣《いせまい》りさえしないのだし祖母《そぼ》だって伊勢詣り一ぺんとここらの観音巡《かんのんめぐ》り一ぺんしただけこの十何年|死《し》ぬまでに善光寺《ぜんこうじ》へお詣りしたいとそればかり云っているのだ、ことに去年《きょねん》からのここら全体《ぜんたい》の旱魃《かんばつ》でいま外へ遊《あそ》んで歩くなんてことはとなりやみんなへ悪《わる》くてどうもいけないということを云った。
 僕はいくら下を向いていても炉のなかへ涙《なみだ》がこぼれて仕方《しかた》なかった。それでもしばらくたってからそんなら僕はもう行かなくてもいいからと云《い》った。ぼくはみんなが修学旅行《しゅうがくりょこう》へ発《た》つ間休みだといって学校は欠席《けっせき》しようと思ったのだ。すると父がまたしばらくだまっていたがとにかくもいちど相談《そうだん》するからと云ってあとはいろいろ稲《いね》の種類《しゅるい》のことだのふだんきかないようなことまでぼくにきいた。ぼくはけれども気持《きも》ちがさっぱりし
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