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いま窓《まど》の右手にえぞ富士《ふじ》が見える。火山だ。頭が平《ひら》たい。焼《や》いた枕木《まくらぎ》でこさえた小さな家がある。熊笹《くまざさ》が茂《しげ》っている。植民地《しょくみんち》だ。

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いま小樽《おたる》の公園に居《い》る。高等商業《こうとうしょうぎょう》の標本室《ひょうほんしつ》も見てきた。馬鈴薯《ばれいしょ》からできるもの百五、六十|種《しゅ》の標本が面白《おもしろ》かった。
この公園も丘《おか》になっている。白樺《しらかば》がたくさんある。まっ青《さお》な小樽|湾《わん》が一目だ。軍艦《ぐんかん》が入っているので海軍には旗《はた》も立っている。時間があれば見せるのだがと武田《たけだ》先生が云った。ベンチへ座《すわ》ってやすんでいると赤い蟹《かに》をゆでたのを売りに来る。何だか怖《こわ》いようだ。よくあんなの食べるものだ。

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一千九百廿五年十月十六日
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一時間目の修身《しゅうしん》の講義《こうぎ》が済《す》んでもまだ時間が余《あま》っていたら校長が何でも質問《しつもん》していいと云った。けれども誰《だれ》も黙《だま》っていて下を向《む》いているばかりだった。ききたいことは僕《ぼく》だってみんなだって沢山《たくさん》あるのだ。けれどもぼくらがほんとうにききたいことをきくと先生はきっと顔をおかしくするからだめなのだ。
なぜ修身がほんとうにわれわれのしなければならないと信《しん》ずることを教えるものなら、どんな質問でも出さしてはっきりそれをほんとうかうそか示《しめ》さないのだろう。
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一千九百廿五年十月廿五日
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今日は土性調査《どせいちょうさ》の実習《じっしゅう》だった。僕《ぼく》は第《だい》二|班《はん》の班長で図板《ずばん》をもった。あとは五人でハムマアだの検土杖《けんどじょう》だの試験紙《しけんし》だの塩化加里《えんかカリ》の瓶《びん》だの持《も》って学校を出るときの愉快《ゆかい》さは何とも云《い》われなかった。谷《たに》先生もほんとうに愉快そうだった。六班がみんな思い思いの計画で別々《べつべつ》のコースをとって調査にかかった。僕は郡《ぐん》で調《しら》べたのをちゃんと写《うつ》して予
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