《しぼう》のためだろう、けれど豚にも骨はある。それから肉もあるんだから、たぶん比重は一ぐらいだ。」
「比重をそんなら一として、こいつは何斗あるだろう。」
「五斗五升はあるだろう。」
「いいや五斗五升などじゃない。少く見ても八斗ある。」
「八斗なんかじゃきかないよ。たしかに九斗はあるだろう。」
「まあ、七斗としよう。七斗なら水一斗が五貫だから、こいつは丁度三十五貫。」
「三十五貫はあるな。」
 こんなはなしを聞きながら、どんなに豚は泣いたろう。なんでもこれはあんまりひどい。ひとのからだを枡《ます》ではかる。七斗だの八斗だのという。
 そうして丁度七日目に又あの教師が助手と二人、並《なら》んで豚の前に立つ。
「もういいようだ。丁度いい。この位まで肥ったらまあ極度だろう。この辺だ。あんまり肥育をやり過ぎて、一度病気にかかってもまたあとまわりになるだけだ。丁度あしたがいいだろう。今日はもう飼《えさ》をやらんでくれ。それから小使と二人してからだをすっかり洗って呉れ。敷藁《しきわら》も新らしくしてね。いいか。」
「承知いたしました。」
 豚はこれらの問答を、もう全身の勢力で耳をすまして聴《き》いて
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