に、入ってだんだん腹が重くなる。これが強制肥育だった。
 豚の気持ちの悪いこと、まるで夢中《むちゅう》で一日泣いた。
 次の日教師が又来て見た。
「うまい、肥《ふと》った。効果がある。これから毎日小使と、二人で二度ずつやって呉れ。」
 こんな工合でそれから七日というものは、豚はまるきり外で日が照っているやら、風が吹いてるやら見当もつかず、ただ胃が無暗《むやみ》に重苦しくそれからいやに頬《ほお》や肩《かた》が、ふくらんで来ておしまいは息をするのもつらいくらい、生徒も代る代る来て、何かいろいろ云っていた。
 あるときは生徒が十人ほどやって来てがやがや斯《こ》う云った。
「ずいぶん大きくなったなあ、何貫ぐらいあるだろう。」
「さあ先生なら一目見て、何百目まで云うんだが、おれたちじゃちょっとわからない。」
「比重がわからないからなあ。」
「比重はわかるさ比重なら、大抵《たいてい》水と同じだろう。」
「どうしてそれがわかるんだい。」
「だって大抵そうだろう。もしもこいつを水に入れたら、きっと沈《しず》みも浮《うか》びもしない。」
「いいやたしかに沈まない、きっと浮ぶにきまってる。」
「それは脂肪
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