居た。(いよいよ明日だ、それがあの、証書の死亡ということか。いよいよ明日だ、明日なんだ。一体どんな事だろう、つらいつらい。)あんまり豚はつらいので、頭をゴツゴツ板へぶっつけた。
 そのひるすぎに又助手が、小使と二人やって来た。そしてあの二つの鉄環《てつわ》から、豚の足を解いて助手が云う。
「いかがです、今日は一つ、お風呂《ふろ》をお召《め》しなさいませ。すっかりお仕度《したく》ができて居ます。」
 豚がまだ承知とも、何とも云わないうちに、鞭《むち》がピシッとやって来た。豚は仕方なく歩き出したが、あんまり肥ってしまったので、もううごくことの大儀《たいぎ》なこと、三足で息がはあはあした。
 そこへ鞭がピシッと来た。豚はまるで潰《つぶ》れそうになり、それでもようよう畜舎の外まで出たら、そこに大きな木の鉢《はち》に湯が入ったのが置いてあった。
「さあ、この中にお入りなさい。」助手が又一つパチッとやる。豚はもうやっとのことで、ころげ込《こ》むようにしてその高い縁《ふち》を越《こ》えて、鉢の中へ入ったのだ。
 小使が大きなブラッシをかけて、豚のからだをきれいに洗う。そのブラッシをチラッと見て、豚は
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