てこう云った。
「まあそうだ。けれども今日だなんて、そんなことは決してないよ。」
「でも明日でもというんでしょう。」
「さあ、明日なんていうよう、そんな急でもないだろう。いつでも、いつかというような、ごくあいまいなことなんだ。」
「死亡をするということは私が一人で死ぬのですか。」豚は又《また》金切声で斯うきいた。
「うん、すっかりそうでもないな。」
「いやです、いやです、そんならいやです。どうしてもいやです。」豚は泣いて叫《さけ》んだ。
「いやかい。それでは仕方ない。お前もあんまり恩知らずだ。犬|猫《ねこ》にさえ劣《おと》ったやつだ。」校長はぷんぷん怒り、顔をまっ赤にしてしまい証書をポケットに手早くしまい、大股《おおまた》に小屋を出て行った。
「どうせ犬猫なんかには、はじめから劣っていますよう。わあ」豚はあんまり口惜《くや》しさや、悲しさが一時にこみあげて、もうあらんかぎり泣きだした。けれども半日ほど泣いたら、二晩も眠らなかった疲《つか》れが、一ぺんにどっと出て来たのでつい泣きながら寝込《ねこ》んでしまう。その睡《ねむ》りの中でも豚は、何べんも何べんもおびえ、手足をぶるっと動かした。

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