ところがその次の日のことだ。あの畜産の担任が、助手を連れて又やって来た。そして例のたまらない、目付きで豚をながめてから、大へん機嫌《きげん》の悪い顔で助手に向ってこう云った。
「どうしたんだい。すてきに肉が落ちたじゃないか。これじゃまるきり話にならん。百姓《ひゃくしょう》のうちで飼《か》ったってこれ位にはできるんだ。一体どうしたてんだろう。心当りがつかないかい。頬肉《ほおにく》なんかあんまり減った。おまけにショウルダアだって、こんなに薄《うす》くちゃなってない。品評会へも出せぁしない。一体どうしたてんだろう。」
 助手は唇《くちびる》へ指をあて、しばらくじっと考えて、それからぼんやり返事した。
「さあ、昨日の午后《ごご》に校長が、おいでになっただけでした。それだけだったと思います。」
 畜産の教師は飛び上る。
「校長? そうかい。校長だ。きっと承諾書を取ろうとして、すてきなぶまをやったんだ。おじけさせちゃったんだな。それでこいつはぐるぐるして昨夜一晩寝ないんだな。まずいことになったなあ。おまけにきっと承諾書も、取り損《そこ》ねたにちがいない。まずいことになったなあ。」
 教師は実に口
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