に斯う書いてある。死亡承諾書、私|儀《ぎ》永々|御恩顧《ごおんこ》の次第《しだい》に有之候儘《これありそうろうまま》、御都合《ごつごう》により、何時《いつ》にても死亡|仕《つかまつ》るべく候年月日フランドン畜舎《ちくしゃ》内、ヨークシャイヤ、フランドン農学校長|殿《どの》 とこれだけのことだがね、」校長はもう云い出したので、一瀉千里《いっしゃせんり》にまくしかけた。
「つまりお前はどうせ死ななけぁいかないからその死ぬときはもう潔《いさぎよ》く、いつでも死にますと斯う云うことで、一向何でもないことさ。死ななくてもいいうちは、一向死ぬことも要《い》らないよ。ここの処へただちょっとお前の前肢《まえあし》の爪印《つめいん》を、一つ押しておいて貰いたい。それだけのことだ。」
 豚は眉《まゆ》を寄せて、つきつけられた証書を、じっとしばらく眺《なが》めていた。校長の云う通りなら、何でもないがつくづくと証書の文句を読んで見ると、まったく大へんに恐《こわ》かった。とうとう豚はこらえかねてまるで泣声でこう云った。
「何時にてもということは、今日でもということですか。」
 校長はぎくっとしたが気をとりなおし
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