そっと西風にたのんでこう言《い》いました。
「どうか気にかけないでください。こいつはもうまるで野蛮《やばん》なんです。礼式《れいしき》も何も知らないのです。実際《じっさい》私はいつでも困《こま》ってるんですよ」
軽便鉄道《けいべんてつどう》のシグナレスは、まるでどぎまぎしてうつむきながら低《ひく》く、
「あら、そんなことございませんわ」と言《い》いましたがなにぶん風下《かざしも》でしたから本線《ほんせん》のシグナルまで聞こえませんでした。
「許《ゆる》してくださるんですか。本当を言ったら、僕《ぼく》なんかあなたに怒《おこ》られたら生きているかいもないんですからね」
「あらあら、そんなこと」軽便鉄道の木でつくったシグナレスは、まるで困《こま》ったというように肩《かた》をすぼめましたが、実《じつ》はその少しうつむいた顔は、うれしさにぽっと白光《しろびかり》を出していました。
「シグナレスさん、どうかまじめで聞いてください。僕あなたのためなら、次《つぎ》の十時の汽車が来る時|腕《うで》を下げないで、じっとがんばり通してでも見せますよ」わずかばかりヒュウヒュウ言《い》っていた風が、この時ぴた
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