ら》がさももったいぶって申《もう》しました。
本線のシグナルはきまり悪《わる》そうに、もじもじしてだまってしまいました。気の弱いシグナレスはまるでもう消《き》えてしまうか飛《と》んでしまうかしたいと思いました。けれどもどうにもしかたがありませんでしたから、やっぱりじっと立っていたのです。
雲の縞《しま》は薄《うす》い琥珀《こはく》の板《いた》のようにうるみ、かすかなかすかな日光が降《ふ》って来ましたので、本線シグナルつきの電信柱はうれしがって、向こうの野原《のはら》を行く小さな荷馬車《にばしゃ》を見ながら低《ひく》い調子《ちょうし》はずれの歌をやりました。
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「ゴゴン、ゴーゴー、
うすい雲から
酒《さけ》が降《ふ》りだす、
酒の中から
霜《しも》がながれる。
ゴゴン、ゴーゴー、
ゴゴン、ゴーゴー、
霜がとければ、
つちはまっくろ。
馬はふんごみ、
人もぺちゃぺちゃ。
ゴゴン、ゴーゴー」
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それからもっともっとつづけざまに、わけのわからないことを歌いました。
その間に本線《ほんせん》のシグナル柱《ばしら》が、
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